「整備士、向いてないかもしれない」
そう思って検索したなら、たぶん今日、何かありましたか?
ミスをした。先輩に怒られた。同じことを何度も聞いてしまった——。
私は整備士を20年やっています。2級整備士で、自動車検査員もしています。
そう書くと「向いていた人」に見えるかもしれませんが、今でもたまに、言われたことを一度で覚えられないことがあります。苦笑
この記事では、「向いてない」と感じるその気持ちについて、正直に書きます。
「大丈夫、誰でもそうだよ」で終わらせるつもりはありません。ただ、20年続けてみて分かったことがあるので、それをお伝えします。
「向いてない」と感じるのは、こんな瞬間
「向いてない」と思うのは、たいてい何かがあった直後です。私の場合、こんなときでした。
仕事でミスをしたとき
やり直しになる。時間が余計にかかる。誰かに迷惑がかかる。そういうとき、「自分はこの仕事に合っていないんじゃないか」という気持ちになります。
同僚と意見が合わないとき
診断の見立てや作業のやり方で意見が割れる。自分の考えが通らない。そんなとき、「周りと同じように考えられない自分は、この仕事に向いていないのかも」と感じます。
いつもならミスしない作業で、壊してしまったとき
何度もやってきた作業です。手順も分かっている。それなのに、ほんの少し気がゆるんだ瞬間に、壊してしまう。
これが一番こたえます。難しい作業で失敗したのなら「まだ経験が足りない」で済みます。
でも、できるはずの作業で壊すと、言い訳のしようがありません。
こうして並べてみると、あることに気づきます。
どれも、その直前に何かが起きています。
もともと向いていなかったのではなく、何かがあって、気持ちが落ちている。
「向いてない」という言葉は、そのときに出てくるものです。
正直に言うと、私も一度では覚えられません
整備士を20年やっています。それでも、こういうことがあります。
言われたことを、一度で覚えられない
先輩に教わった手順を、次にやるときには忘れている。
もう一度聞く。「この前も言ったよな」と言われる。
若い頃の話ではありません。今でもたまにあります。
そこまで難しくない作業を、スムーズにできない
特別な作業ではないのに、手が止まる。段取りが悪くて時間がかかる。周りは普通にこなしているように見える。
後輩を見て「向いてない」と思ったことはありません
一度でできなくても大丈夫。ミスもしょうがない。後輩にはそう言ってます。
むしろ、ミスが出るのはチャレンジしている証拠です。やったことのない作業に手を出すから、ミスが起きる。
何もしなければミスはしませんが、それでは成長しません。
ただ、一つだけ伝えていることがあります。
同じミスを何度も繰り返すのはよくない。
ミスをしたなら、そこで学べばいい。なぜそうなったのかを考えて、次は同じことをしないようにする。それができれば、そのミスは無駄になりません。
だから、「一度で覚えられない」も「スムーズにできない」も、向いていない証拠ではありません。
どうやって乗り越えたか
特別なことはしていません。やったのは2つだけです。
聞ける同僚を見つけて、何度も聞いた
「分からなければ人に聞け」とよく言われてました。でも実際は、そう簡単ではありません。「この前も聞いたよね」と思われるのが嫌で、聞けないまま作業を進めてしまう。
私がやっていたのは、聞く相手を選ぶことでした。
同じ職場でも、人によって反応は違います。何度聞いても嫌な顔をせずに教えてくれる同僚がいる。私はその人に聞いていました。
その作業を知っているなら、後輩に聞いてもいい。年数が下でも、自分が触ったことのある作業なら詳しい、ということはよくあります。
ずるいやり方に見えるかもしれません。でも、聞けないまま分からずに作業するほうが、よほど問題です。
壊すかもしれない。やり直しになるかもしれない。それなら、聞ける人に聞いたほうがいい。
職場に一人、そういう相手を見つけておく。それだけで、仕事のしんどさはずいぶん変わります。
とにかく数をこなした
もう一つは、単純に量です。
一度で覚えられないなら、二度、三度やるしかない。同じ作業を何回もやっているうちに、手が覚えます。頭で思い出さなくても、体が先に動くようになる。
覚えが悪いというのは、そこにたどり着くまでの回数が人より多いというだけです。回数を重ねれば、たどり着きます。
ただ、数をこなせる環境ばかりではありません。入庫台数が少ない職場もあれば、まだ任せてもらえない立場のこともあります。
そういうときは、同僚の作業を見せてもらうことです。手が空いているときに近くで見る。できれば少し触らせてもらう。自分でやった回数にはかないませんが、何もしないよりはるかに残ります。
20年続けて出した結論
「向いている」と思えるようになったか。そう聞かれると、正直、そこまでではありません。ただ——気づいたら、やっていけるようになっていました。
年数の問題ではありませんでした
よく「3年やれば一人前」などと言われます。でも私の実感は違います。年数はあまり関係ありません。
変わったきっかけは、はっきりしています。ディーラーに勤めていた頃、メーカーの技術検定を受けるために勉強したことです。
試験のために覚えた知識が、そのまま仕事で使えるようになりました。
故障の原因を考えるとき、点検の意味をお客様に説明するとき、頭の中に根拠がある。
それまで「先輩がそう言ったから」でやっていた作業に、理由がつくようになった。
このとき初めて、多少の自信が出ました。
誤解のないように書いておくと、物覚えがよくなったわけではありません。
今でも一度で覚えられないことはたまにあります。
変わったのは別のところでした。覚えていなくても、根拠から考えればたどり着ける。そう思えるようになったことです。
丸暗記に頼らなくてよくなった、と言ってもいいかもしれません。
手を動かすだけでは、私はどこかで止まりました
さきほど「とにかく数をこなした」と書きました。これは間違いなく必要です。
ただ、ここから先はあくまで私個人の感覚です。
私の場合、数をこなすだけでは、ある時点で止まりました。作業はできる。でも、なぜそうするのかが説明できない。手順から外れたことが起きると、手が止まる。その状態が続くかぎり、「自分は向いてないのかも」という気持ちは消えませんでした。
そこを抜けたのが、知識でした。
もちろん、これが全員に当てはまるとは思いません。現場で数をこなすうちに自然と分かってくる人もいますし、人に教わりながら身につけていく人もいます。自分に合うやり方でいいと思います。
向いているかどうかは、あとから決まります。
続けた年数ではなく、知識と経験がつながった瞬間に、仕事は変わります。私の場合はそれが検定の勉強でした。
そのとき、「向いてない」という言葉は、いつの間にか頭から消えています。
それでも苦手な分野は残る|得意を伸ばして「頼まれる人」になる
ここまで書いてきましたが、正直に言うと、苦手な作業が全部なくなるわけではありません。
会社員でいる以上、向いていない仕事を完全に避けることは無理です。順番で回ってくるし、人が足りなければやるしかない。「苦手だからやりません」は通りません。
だから、避けるのではなく、別の方向で考えます。
「少しでも得意」「やっていて嫌じゃない」を探す
得意といっても、人に自慢できるレベルの話ではありません。周りと比べて少しだけマシ。あるいは、やっていて苦にならない。それくらいで十分です。
整備の仕事といっても、中身は分かれています。
- 車検・点検整備(検査、記録簿の作成、点検で見つけた不具合を直す)
- 一般整備(オイル、ブレーキ、消耗品の交換)
- 故障診断(原因を探す)
- 重整備(エンジンやミッションを降ろすような作業)
この中で、そこまで嫌じゃないものはありませんか?
全部苦手に感じていても、並べて比べれば差があるはずです。
「診断は苦手だけど、重整備は黙々とやれる」「重整備はしんどいけど、診断で不具合を見つけるのは面白い」——そういう違いです。
自分では気づいていないこともあります。「これ頼むわ」と何回か言われた作業があれば、それが手がかりです。
その分野で「頼まれる人」になる
一つでもそういう分野があると、少しずつ「これはあの人に」となってきます。
そうなると、何が変わるか。職場での立ち位置ができます。
苦手な作業をやっているときでも、「自分にはこれがある」と思える。これが効きます。
「向いてない」と感じるのは、どの作業をとっても自分が一番できていない気がするときです。一つでも頼まれる分野があれば、その気持ちはずいぶん薄れます。
苦手を人並みにするより、嫌じゃないことを伸ばすほうが、はるかに楽です。
それでも環境が合わないときは
ここまで、続けるための話を書いてきました。ただ、最後に一つだけ、正直に書いておきます。
どれだけ工夫しても、環境そのものが合っていないことがあります。
この記事で書いてきたことを、もう一度並べてみます。
- 聞ける同僚を見つけて聞く
- とにかく数をこなす
- 勉強して、知識と経験をつなげる
- 嫌じゃない分野を伸ばして、頼まれる人になる
これ、実は全部、職場側の条件が要ります。
- 聞ける相手が、一人もいない
- 入庫が少なくて、数がこなせない
- 残業続きで、勉強する時間が取れない
- 人手が足りず、得意も苦手も関係なく全部回ってくる
こうなると、本人がどれだけがんばっても前に進みません。
そして厄介なのは、このとき人は「自分が向いてない」と思ってしまうことです。
でも実際は違います。向いていないのではなく、環境が合っていない。この2つは、まったく別の話です。
見分け方の目安
はっきりした基準はありませんが、一つの見方があります。
同じ職場に、生き生きと働けている人がいるかどうか。
いるなら、自分のやり方でまだ変えられる余地があるかもしれません。
逆に、誰を見てもみんな疲れている——という職場なら、問題は個人ではなく環境の側にある可能性が高いです。
すぐ辞めろという話ではありません。まずはこの記事に書いたことを試してみてください。そのうえで、それでもどうにもならないときは、環境を変える道もある。それだけ頭の隅に置いてもらえれば十分です。
なお、「環境が合っていないだけなのか」を判断するには、外の求人を見てみるのが一番早いです。他社の条件を知って初めて、今の職場が普通なのかどうかが分かります。私が使ったのは整備士ジョブズでした。
登録は無料・5分で完了。見るだけで辞める必要はありません。
まとめ|向いているかどうかは、あとから決まる
最後に、この記事で伝えたかったことをまとめます。
- 「向いてない」と感じるのは、たいていその直前に何かが起きたとき
- 一度で覚えられない・スムーズにできないのは、向いていない証拠ではない(20年やった私も同じです)
- ミスはチャレンジしている証拠。ただし同じミスを繰り返さないことは考える
- 聞ける同僚を一人見つけて、何度でも聞く(後輩でも、知っている人ならかまわない)
- 数をこなす。こなせない環境なら、同僚の作業を見せてもらう
- 変わるきっかけは年数ではなく、知識と経験がつながった瞬間
- 覚えられなくてもいい。根拠から考えればたどり着ける
- 苦手をなくすより、嫌じゃない分野を伸ばして「頼まれる人」になる
- どうしても合わないときは、環境を変える道もある
冒頭に書いたとおり、「大丈夫、誰でもそうだよ」で終わらせるつもりはありませんでした。
私は今でも、言われたことを一度で覚えられないことがあります。それでも20年続いています。向いていたから続いたのではなく、続けているうちに、やっていけるようになりました。
今日は落ち込んでいるかもしれません。ただ、「向いてない」と決めるのは、今日でなくてもいいと思います。
まずは、少しでも自分が得意だと思える作業を見つけてみてはどうでしょうか。
この記事を書いた人
現役の自動車整備士(整備歴20年・2級整備士/自動車検査員)。整備の技術のほか、整備士の転職やお金・家計についても、現場のリアルと実体験をもとに書いています。


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