民間整備工場への転職を考えたとき、こんな不安が頭をよぎっていませんか。
「民間って、この先オワコンなんじゃないか」
「ディーラーより厳しいって聞くし、電子制御についていけるのか」
「給料も下がるって言うし、そもそも民間で食っていけるのか」
その気持ち、よく分かります。かつての私が、まさにそう思い込んでいた側だったからです。
私は整備士歴20年以上。ディーラーで10年以上働き、一度異業種へ転職して失敗し、今は民間整備工場で働いています。ディーラーと民間の両方を、中から見てきました。
先に結論をお伝えします。民間整備工場は、オワコンではありません。 ディーラーとは役割が違うだけです。
この記事では、「民間はオワコン」という不安の中身を、いい面も悪い面もふくめて正直にお話しします。読み終えたときに、思い込みではなく自分の軸で、民間という選択肢を判断できるようになってもらえたら嬉しいです。
私自身、「民間はオワコンだ」と思い込んでいた
まず、私自身の思い込みの話からさせてください。
ディーラーで働いていた頃の私は、「民間は電子制御などで、これからどんどん厳しくなる」と本気で思い込んでいました。整備の世界を続けるにしても、民間という選択肢が、自分の中でまともに見えていなかったんです。
その結果、私が選んだのは民間ではなく、異業種の製造の仕事でした。そして1年経たずに退職し、整備の世界へ戻ってきます。(この経緯はディーラー整備士を辞めてよかった【現役整備士が振り返る転職のすべて】に書いています)
遠回りして民間で働き始めて、ようやく気づきました。あの頃の「民間はオワコン」というイメージの多くは、ただの思い込みだった、と。ここから、その一つひとつを検証していきます。
オワコン説①「民間は電子制御についていけない」は本当か
当時の私が一番大きく誤解していたのが、ここです。今の実感を正直に書きます。結論から言うと、思い込みでした。 ただし、働く民間の工場によるところはあります。
まず、診断機。今どき、診断機なしでは整備が成り立たないので、どの民間でもふつうに持っています。修理書(整備要領書)も、ファイネス(FAINES)に登録していれば見られます。ファイネスとは、日本自動車整備振興会連合会(日整連)が運営する、各メーカーの整備情報――整備要領書や配線図など――を横断して閲覧できる、整備事業者向けの登録制オンラインサービスのことです。民間でも、ここから必要な情報を引けます。
もちろん、本当に高難度の診断で、民間では判断しきれない場面もあります。でも、そういうときはディーラーに任せればいい。これは民間の弱みでもありますが、見方を変えれば「無理に抱え込まず、頼れる先がある」という強みでもあります。
私なりの例えで言うと、こうです。
ディーラーは、難しい症例を引き受ける「最後の砦(大病院)」。
民間は、身近な不調をまず診る「街のお医者さん」。
どちらが上・下ではなく、役割が違うだけなんです。街のお医者さんが、大病院じゃないから劣っている、とは言いませんよね。民間整備も同じで、「電子制御についていけないから終わり」というのは、少なくとも私の実感では誤解でした。
オワコン説②「民間は薄給・接客がきつい」は本当か
次の不安が、「民間は給料が安い」「接客(クレーム対応)がきつい」でした。これも今の体感でお話しします。
給料について。 確かに、ディーラーに比べたら給料は少ない傾向にあります。ただ、しっかり家計管理をして、無駄な出費を削減できれば、やっていける可能性は大いにあるというのが私の実感です。
▶ 家計管理の具体的な進め方は、整備士のお金の悩みを解決する完全ガイド【家計管理から始める収入と暮らしの整え方】にまとめています。
そのうえで、条件のいい民間を選ぶなら、目安にしたいポイントがあります。ひとつは、指定工場(いわゆる「民間車検場」)であること。もうひとつは、可能なら中古車や新車の販売もしている工場であることです。整備だけの工場より、販売もしている工場のほうが経営に幅があって、条件がよくなりやすい印象です(あくまで私の体感で、すべてに当てはまるわけではありません)。
接客について。 民間整備工場は、どちらかといえば地域密着型の商売です。飛び込みの新規客より、長く通ってくれている既存のお客さんが中心になります。顔の見える関係ができているぶん、いきなり大きなクレームになる、ということは私の職場では多くありません。一方でディーラーは、基本的にお客さんを選べません。「お客様は神様」という考え方も根強くあります。
ただし、これも店(立地や社長の方針)によります。「民間なら必ず楽」とは言えない、という留保はきちんと付けておきます。
いちばんの不安「EV化で整備の仕事は減るのか」
「オワコン?」と考えるとき、いちばん気になるのはこの先、整備の仕事そのものが減らないか——EV(電気自動車)化の話だと思います。
ここは、私の個人的な見解として聞いてください。一般の家庭がEVを当たり前に持つのは、まだまだ先の未来だと感じています。街を走っている車の多くは、今もガソリン車やハイブリッド車です。充電インフラや車両価格を考えても、すべてがEVに置き換わるには、かなりの時間がかかるはずです。
つまり、当面のあいだ、整備の需要が急にゼロになることは考えにくい、というのが私の実感です。もちろん未来を断言はできませんし、EV化が少しずつ進んでいくのも事実です。それでも、「明日にでも整備士の仕事がなくなる」といった話ではない、と私は思っています。
(EV化や整備士の将来性そのものは、それだけで一本の大きなテーマなので、ここでは「私の現場感」としての一言にとどめます)
とはいえ、ディーラーにもちゃんと良さがある
ここまで民間の話をしてきましたが、ディーラーが悪いわけでは決してありません。 民間が正解、という話でもない。
ディーラーには、給料の水準が安定していること、最新の技術や最先端の情報が入ってくること、教育・研修の体制が整っていること——といった、はっきりした強みがあります。特定メーカーの車を深く極めたい人にとっては、ディーラーは間違いなく良い環境です。
大事なのは、「ディーラーか民間か」を、一般論の優劣や”オワコンかどうか”の噂で決めないことです。
結局は、「自分の優先順位」で選ぶ
思い込みを外したうえで、最後に考えてほしいのは、自分が何を一番大事にしたいのかです。人によって答えは違います。
- お金:安定した給料の水準を取りたいか
- 休み:今、そして数年後の家族の生活リズムに合う休みが必要か(子どもが小学校に上がると、カレンダー通りの休みがじわじわ効いてきます)
- 接客:お客さんと関わる仕事が好きか、できれば減らしたいか
- 技術:最新・最先端を追いたいか、幅広く何でも診たいか
この優先順位が見えてくると、「民間はオワコンか」ではなく、「自分にとって民間は合うか」という、もっと役に立つ問いに変わります。
まとめ:オワコンかどうかは「ニーズがあるか」で決まる
最後に、いちばん伝えたいことを。
確かに、ディーラーじゃないと最先端の情報は入ってこないかもしれません。それは事実だと思います。
でも、“商売”として見ると、話は変わります。 最先端の情報がなくても、お客さんからのニーズがあるなら、その会社が潰れることはそうそうありません。街のお医者さんが、大病院の最新設備を持っていなくても、地域に必要とされて成り立っているのと同じです。
「民間はオワコン」という不安は、もしかすると「技術の最先端」と「商売として成り立つか」を、ごっちゃにしているのかもしれません。少なくとも、かつての私はそうでした。
民間整備という選択肢は、あなたが思っているより、ずっと現実的です。オワコンだからと、思い込みで消してしまう前に——まずは情報を取りにいって、自分の目で確かめてみてください。
▶ 民間も含めた職場の選び方や、転職の進め方は、整備士が転職を成功させる完全ガイド【転職先・手順・失敗しない方法を全解説】にまとめています。


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